2024.2.12

 炎上するアストンマーチンの中で炊かれる粒立ちの良い米一粒一粒に刻まれた王国で暮らす尾を引く赤いでんぷんの糸で結ばれた少年少女。天体整地用最終ジャガーノート型彼女が地面の皺を伸ばし 少年はおもむろに靴を脱いですり減ったソールの空虚に明日食べるパンの言い表しようのない柔らかさを感じ取る。

 おおよそ人類史とは固くて重たいものを早く動かすことの技術史であり 柔らかくて軽いものは冷遇される傾向にある中で少年は完全な軟体の加速度に心奪われ ジャガーノート型彼女はガブルルルルと嫉妬に震えて液状化し 振動の熱で蒸発した。熱されて上昇する気体と赤い糸で繋がれたままの少年はカーマンラインを超え 無限軌道にならされた三代前の地球を見る。つやつやに磨かれた星から出来る辛口大吟醸の香気に酔って前後不覚の少年少女は米粒の輪郭からほんの少しだけはみ出し 炎上するアストンマーチンの中でピザを焼こうとするレーサーを宇宙人だと勘違いして オリーブを投げつけた。それを啄む鳩こそが稲穂に金メッキを施した異星よりのアンチパン(bread)の使者だと言うのに。